ボリショイの「失敗」は、完璧な演出だった
いやはや、恐れ入谷の鬼子母神とは、このことだ。これはもう脱帽する以外にない。
20日のこの欄で、「ボリショイ・サーカス、一瞬の失敗乗り切りに感動」と書いたが、その後、同じ公演を異なる日時に見に行った複数の人から話を聞いたところ、まったく寸分違わない「失敗」がどの公演でも行われていたことが分かった。
ということは、これらの複雑な失敗のすべてのプロセスは、完璧なシナリオに基く最高レベルの演出にほかならなかった、ということだ。
確かにいまから考えれば、ボリショイの目玉の一つであるバランス・アクロバットで、2度も失敗を観客に見せるというのは、おかしいといえばおかしい。
しかし、空中で逆立ちしている男と地上の女が、失敗をめぐって緊迫の会話を交わしたり、カーテンの陰からマネージャーらしい男が出てきて何か叫んだりと、それは予期せぬ失敗そのもののごとくに展開され、客席は凍り付いたまま成り行きを見守っていた。
観客を凍り付かせておいて、2度の失敗の後でかろうじて最後の演技を完成させ、万雷の拍手を浴びるというのは、これ以上のドラマチックな演出はない。
異なる日時の公演を見た人と、この話をしなければ、だれもがあの失敗は本当の失敗で、それを乗り切ったボリショイはさすがだ、と思い込んでしまうに違いない。
すごいと思うのは、その失敗が寸分の狂いもなく、進められていることだ。1度目の失敗では、それまで逆立ちした手の下に積んだ9個のブロックを崩して、すべて地上に落としてしまう。
もっとすごいのは、2度目の失敗だ。この時は、取り損ねた10個目のブロックが空中のテーブルの上に落ちるのだが、テーブルの予定の位置に正確に落とすのは、至難のワザだろう。
演出された「失敗」を、筋書き通りにこなすのは、失敗なしでスムーズに成功させるよりもはるかに難しいことだ。
それを難なくやってのけるボリショイは、さすが世界一のサーカス。凄すぎる、としかいいようがない。
朝刊1面最初の3文字 朝日‥「韓国の」 毎日‥「豪雨に」 読売‥「読売新」 日経‥「政府は」
本日の地球 アフリカ起源の西ナイル熱がアメリカ西海岸で大流行の兆し。日本への侵入も時間の問題。背景にグローバリズムがあり、さらにその背景には温暖化による生態系の異変が。
21世紀の残り日数 35223日
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コメント
もみさん、はじめまして。当日の演目になかったというのは、まことに残念でしたね。
僕の買ったプログラムに載っていて、実際には行われなかった演目が2つくらいあったので、日によって演目を入れ替えているのかも知れませんね。
投稿: BANYUU | 2004/08/15 15:29
はじめまして、もみと申します。ボリショイサーカスを見に行くにあたり、この記事を見つけて楽しみにしていたんですが当日の演目ではありませんでした。残念です~。サーカスって大人でも、(いや自分の限界を悟った大人だからこそかな?)楽しいですよね。
投稿: もみ | 2004/08/15 15:13