ヒチコックの「サイコ」、ジャネット・リーさん死去
ヒチコックの映画「サイコ」で、最もショッキングなシーンは、ラストもさることながら、ベイツ・モテルでの、あのシャワーのシーンだ。
日本で公開されたのは、60年安保の年だった。有楽町の映画館では「結末はお話にならないで下さい」というチラシが観客に渡され、上映の途中からの入場を禁止して入り口を封鎖するという、ものものしい措置が話題を呼んだ。
会社の金を着服して逃げる途中のマリオン(ジャネット・リー)が、ノーマン・ベイツ(アンソニー・パーキンス)が経営するモテルでシャワー中に、包丁でメッタ刺しにされて死ぬ。
映画史に残るこの惨劇は、45秒間であるが観客には非常に長く感じられる。これだけの撮影に7日間もかかっていて、ヒチコックは短いカットをすさまじいテンポでつなげて、観客を恐怖の頂点に追い詰める。
シャワーシーンなので、マリオンは全裸なのだが、乳房の露出もないのに、この惨殺シーンは非常にエロチックである。
このシーンの影響で、出張先のホテルでシャワーを浴びるのが怖い、という人たちは世界中に無数にいる。僕もその一人で、そもそもシャワーの口の形を見ただけでも怖い。
今から7年ほど前に、当時70歳だったジャネット・リーさんが、あのシーンのおかげで自分もシャワー恐怖症になり、撮影以来37年間というもの、一度もシャワーを使ったことがない、と打ち明けていた。(1997年10月27日付け日刊スポーツ)
そのジャネット・リーさんが、3日、カリフォルニアの自宅で亡くなった。
結局、あの撮影以来、リーさんは死ぬまでシャワーを使うことはなかったのではないか、と僕は思う。
「サイコ」の惨劇を背負った人生に幕を閉じて、リーさんは天国でゆっくりとシャワーをあびることが出来るだろうか。
ご冥福をお祈りします。
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