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2004/11/03

高村光太郎の「火星が出てゐる」という詩から

今年はいろいろと、たった一度の人生について、考えさせられた年だった。

18歳の時に親元から離れ郷里から離れて、京都で下宿生活を始めた僕は、自分の人生をどのように生きるつもりでいたか。

青春時代の僕が、生きる指針にしようと傾倒していたのは、高村光太郎の「火星が出てゐる」という詩の一節だった。

手元にある詩集で、4ページにわたる長い詩だが、一部を抜粋してみる。
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火星が出てゐる。
(中略)
予約された結果を思ふのは卑しい。
正しい原因に生きる事、それのみが浄い。
(中略)
おれは知らない、
人間が何をせねばならないかを。
おれは知らない、
人間が何を得ようとすべきかを。
おれは思ふ、
人間が天然の一片であり得ることを。
おれは感ずる、
人間が無に等しい故に大であることを。
ああ、おれは身ぶるひする、
無に等しい事のたのもしさよ。
無をさへ滅した
必然の瀰漫よ。
火星が出てゐる。
(以下略)
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僕はこの詩の「予約された結果を思ふのは卑しい」という一節に、電撃を受けたようなものを感じて、何か重要な決断をしなければならない時には、この言葉を自分に言い聞かせてきた。

人生を振り返ってみて、自分が予約された結果を思わなかったと言い切る自信は、とてもない。

いまこの詩を読み返してみて、「無に等しい事のたのもしさよ」というくだりの方に共感を覚えるのは、年を重ねたせいだろうか。

「無をさへ滅した 必然の瀰漫よ」というくだりなどは、青春時代の只中の僕には、とうてい理解不能だったのかも知れない。

必然の瀰漫(びまん=一面に広がること)が無を滅した! それはたぶん、この宇宙が無のゆらぎから生まれたことと、関係がありそうな気がする。

無は、必然によって滅せられた。無が滅せられたというのは、無がゆらいだということだろう。

この宇宙が無から生まれたのは、必然だったのだ。

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