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2005/01/11

学生時代に徹夜で議論-「なぜ人を殺してはいけないか」

ふっと学生時代の、ささいなことが鮮やかに、つい昨日のことのように思い出されて、自分で驚くことがある。

いつごろのことだったか、僕はその光景までも細部にいたるまで覚えているのだが、一人の仲間の下宿の部屋で、数人で夜通し話をしていたことがある。

いつの間にか話のテーマは、「なぜ僕たちは人を殺さないのか」というところに絞り込まれていった。

人を殺してはいけないことは、法律に定められているが、法律はなぜ人を殺してはいけない、としているのか。人を殺してはならないというのは、それほど自明のことなのだろうか。

実際に人を殺さないのは、裁判と刑罰が待っているからで、法律に定めがなく刑罰もなかったら人を殺すことが出来るのではないか。

いや現実に、戦争で人を殺す行為が許されているのはなぜか。戦争なら、国家のお墨付きでどんなにたくさんの人を殺しても、なんのお咎めもないのだ。それも戦勝国になった場合のことだが‥。

という具合に、青臭い議論が延々と続き、完全犯罪は意外に簡単ではないか、というところまでたどり着いた。

そこで改めて、人を殺すことがそんなに簡単に出来るのなら、なぜ僕たちは人殺しをしないのか、という最初の疑問に立ち戻ったのである。

なぜだろう。なぜ自分は人を殺さないか。それぞれが、その理由を探して思索を掘り進めていくうちに分からなくなって、だれもが重苦しい沈黙の中で、頭が回らなくなっていた。

夜がしらじらと明け始めるころ、その中の唯一の女子学生だったY子が、ぽつりとつぶやいた。

「人を殺したって、なんにも面白くないからよ」

そのひと言で、みんなが、天啓を受けたようにはじけあがった。「そうだよ。人を殺したって、なんにも面白くないからだよ」

この、あたりまえの結論に、僕たちは沸きあがった。

あれから数十年たって、時代は変わった。いまは、面白くて人を殺す子どもがいても、驚かない世の中だ。

輝くように綺麗だったY子は、一度目の結婚では離婚し、二度目の結婚では夫を癌で失った、と微かな風の便りに聞く。

もういい年になっているはずのY子は、かつてこんな話をしたことを、そして自分が出してみんなが納得した結論を、覚えているだろうか。

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