泥棒を追う時、待つはずがないのに「待て~」と叫ぶ理由
秋葉OLさんのブログに、「泥棒さんのスタイル」という秀逸の記事が載っている。
マンガなどでおなじみの、ほっかむりに唐草文様の風呂敷、という泥棒のスタイルがどのようにして形成されてきたのかについて、さまざまな資料をもとにユニークな考察を展開している。
この記事に触発されて、僕もかねがね気になっていた泥棒を追いかける時の「決まり言葉」について書いてみたい。
昔のマンガや映画では、泥棒に何かを盗まれた人が、泥棒を追いかけながら、「ドロボー、待て~」と叫ぶのが定番のシーンになっている。
僕が以前から不思議に思っているのは、「待て~」と言われて待つ泥棒がいるだろうか、ということだ。
「待て~」と叫んで追いかける被害者は、泥棒が決して待つはずがないことを百も承知の上で、叫び続けているのだ。
では、古典的な泥棒追いかけシーンにおける「待て~」には、どのような意味があるのだろうか。
「待て~」は、泥棒に対しての要求・命令というよりは、周囲の人々あるいは声が届く範囲にいる一般人に対するメッセージであり、これには次のような重要な内容がこめられているとみていい。
1.私はたったいま、泥棒の被害にあった直後である。
2.その泥棒は逃走している最中で、私はそれを追いかけている最中である。
3.泥棒は走って(ここのところはとくに重要である)逃げていて、私との距離はあるものの、まだ私の視界の範囲にいる。
4.この叫びが聞こえた人は、泥棒を捕まえるか、せめて進路を妨げるかして、加勢していただきたい。
これだけの膨大なメッセージが、「待て~」という極めて短く簡素な叫びに含まれていることは、注目に値するのではないだろうか。
それは火事の時における「火事だ~」の叫びと同じで、叫ぶことによる警報サイレンであり、周囲の人々への救援依頼の信号になっているのだ。
「待て~」という叫びがこれだけ豊富なメッセージ性を持つからには、この叫びを耳にした泥棒を動揺させずにはおかないのは当然だ。
これを聞いた人たちが正義感や義侠心にかられて飛び出してきて、横から、前から、逃走を妨害するかも知れず、泥棒は危険な立場におかれるのだ。
叫ぶ側はこれらのことを考えているわけではないが、とっさに口をついて出るのはなぜか。
おそらく、直感的には盗まれた金品について「待て~」と願っているのであって、逃げる途中の泥棒が盗んだ金品を落とすなり投げ出してくれたならば、被害者としてはそれで当面の目的は達成される。
この「待て~」が有効なのは、盗品を抱えて走って逃げる古典的・牧歌的な泥棒に対してであって、バイクを使ったひったくりや盗難車で逃走するような泥棒には、ほとんど効果がないことは言うまでもない。
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コメント
盗人には白波という粋な(?)言い方もあったのに、すっかり死後になっていますね。
「待て~、しらなみ~」では、迫力に欠けるし、聞いても何のことか分かりませんね。
投稿: BANYUU | 2005/02/14 14:44
少なくとも滝沢馬琴のころにはあったということですね。
どろぼーだれかつかまえてー
というほうがぴんとくるな。
これも記号的だけど。
投稿: 秋葉OL | 2005/02/14 01:47
石川五右衛門が釜ゆでにされた時の辞世の歌に、「世に盗人の種はつきまじ」とあるのは、このころはまだ泥棒という言葉がなかったということでしょうか。
でも「ぬすびと~」や「ぬすっと~」では、叫びにくいし、周りの人も聞き取りにくいですよね。秋葉OLさんのいうように、泥棒という言葉は叫びやすく、聞き間違いがないことから、定着してきたのだという気がします。
投稿: BANYUU | 2005/02/13 23:02
>古典的・牧歌的
あ、これ、いい表現ですね。
わたしは泥棒という言葉の由来がわからないけど長くあるというのは、音によるものかなぁと思いました。
「どろぼー!!」って叫びやすいから。
「まてー」もそうですね。周りに向けていってるのはまったくそのとおりだなぁ。
投稿: 秋葉OL | 2005/02/13 21:48