謎深まる「沈黙のピアニスト」
新聞やテレビで報じられている「沈黙のピアニスト」は、実に不思議な話だ。
英国南東部の海岸で約1カ月前、ずぶぬれの黒いタキシード姿で見つかった男性が話題を呼んでいる。入院先の病院では人におびえた様子で口を閉ざしている。だが、鉛筆を持たせるとグランドピアノを描き、鍵盤に向かうとプロ級の演奏を披露する。「沈黙のピアニスト」。英メディアを通して、男性の身元捜しが広がっている。
男性は20~30代で身長約180センチ。4月7日にケント州シアネスの海岸をさまよっているところを保護された。着衣のラベルはすべて切り取られ、身元の手がかりになるものはなかったとされる。精神的ショックを受けたためか記憶を失い、精神が不安定な状態が続いているという。
病院側は身元を特定しようと、鉛筆と紙を渡したところ、細かい筆致でグランドピアノといすを描いた。ピアノの前に座らせると、一転してリラックスした様子となり、チャイコフスキーの白鳥の湖や自作と思われる曲を2時間以上にわたって演奏したという。
英メディアが男性の写真を報じた後、行方不明者を捜す電話サービスなどに、欧州全域から160件以上の問い合わせがあったという。(18日付け朝日朝刊)
英メディアを皮切りに世界中のメディアが、この男の身元捜しをしているが、いまのところ確たる情報には至っていないようだ。
映画「シャイン」に似ているという声も多く、さらにハリウッドがこの男をモデルに映画化に動き出したという報道も伝えられている。
2ちゃんねるでも、この話で持ちきりだ。狂言説や演出説まで飛び出している。
僕も報道されている以上のことは分からないが、もっとも不思議なのは、これだけ世界中のメディアが男の写真を流しているのに、なぜ身元が判明しないのか、ということだ。家族や知人が全くいないのだろうか。そうだとしても、ピアノを演奏するという話から「あの人だ」という声が上がってもおかしくないはずだ。
その写真は、なよなよとした感じで、内股気味に膝をやや曲げている姿で、おびえているようでもあり、自分が誰なのかを問いかけているようでもある。
保護されてから40日にもなるのに、なぜこの1枚の写真だけしか公表されていないのかも不思議だ。
ピアノを見事に弾きこなすというが、その映像はなぜないのだろうか。あるのに何らかの理由で公表されていないのだろうか。
この男が記憶も言葉も失うことになったのは、どんな出来事があったのだろうか。よほどのショックと恐怖だったのだろうか、と思ってみたりする。
僕がとっさに頭に思い浮かべたのは、この男の目の前で、家族か恋人が痛ましい殺され方をしたのではないか、ということだ。それも信じがたいほどに残酷なやり方で。
さもなくば、この男はどんな言葉をもってしても説明できない恐ろしいものを見たか。身も心も精神も凍りつくほど恐ろしいものとは、何だろうか。
などと心配しているうちに、世界中が「なあんだ」と拍子抜けするような単純な解決で終わってくれればいいのだが。
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