フラッシュなしでホタルの写真を撮る
昔のことになるが、入社したての駆け出しのころ、ホタルの写真を撮る仕事が僕に回ってきた。
ちょうど今ごろの季節だったように思う。
厳しく言われたのは、絶対にフラッシュをたいてはならない、ということだ。
何よりも、フラッシュの強い光はホタルそのものに致命的な打撃となる。さらにほかの鑑賞者への大迷惑となる。
そして、実際問題としてフラッシュをたいてもホタルの発光は決して写真に撮れないのだ。
ホタルの名所となっている川に行くと、あっちにもこっちにも、ゲンジボタルの幽玄の光が空中に舞っている。
ほかの鑑賞者の邪魔にならない場所を選んで、カメラを三脚に固定する。絞りをうんと絞り込み、シャッターを開放にして切る。
そのまま、どれくらい待てばいいのか見当もつかない。10秒、30秒、1分といろいろ撮ってみる。
ユカタ姿で鑑賞する女性の姿でも入れたいところだが、露出時間が長いので動く人物は写らない。
ていうか、そもそもユカタ姿で来ている人など見回してもいない。
ホタルが発光して飛んでいる時間は、1時間半ほどしかなく、この間にフィルム3本くらい撮りまくる。
すぐに戻って自分で現像する。光の軌跡はなんとか写っているものの、ほとんどがそれだけで、背景も人物も写っていない。
それでも、ヘタな鉄砲も数撃ちゃ当たるで、シャッターが開放している間にもほとんど動いていない人たちが、それなりに写っているのが、2枚か3枚あった。
光の軌跡もたっぷり写っている。これを焼いて、電送機(懐かしい響きだ)にかける。
その間に、記事を作り上げる。写真主体の絵解きなので、記事は20行ほど。
ホタルの写真と記事は、無事に本紙に載ったのだったと思うが、記憶は定かではない。
いまでもあの川では、駆け出しの新人たちが毎年、ホタルの写真を撮るために悪戦苦闘しているのだろうか。
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