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2005/10/09

「キューポラのある街」の作者早船ちよさん死去

映画「キューポラのある街」の作者で、児童文学運動にたずさわってきた早船ちよさんが、老衰のため亡くなった。91歳だった。

吉永小百合の代表作でもあるこの映画を僕が観たのは、大学の構内で開かれた学園祭の催しの映画上映会だった。

主催者の学生による映写機の操作がうまくいかずに、上映の途中で何度も中断して場内が明るくなったことを覚えている。

にもかかわらず、この映画から受けた感銘は強烈だった。

その後、僕はこの映画を何度か観たが、観るたびごとに奥の深さを知る映画だ。

語りきれないほど数多くの名場面がある中で、僕が最も好きなシーンは、小百合演じるジュンが友達の家に行って、2階の窓を開けると、ブラームスの交響曲第4番の第1楽章冒頭のメロディーが静かに流れてくるところだ。

窓の外にはキューポラのある街並み。父の仕事や家庭の中の騒動、加えて目前に迫った修学旅行の費用をどうするか、などさまざまな問題を抱えているジュンが、このメロディーの中で、一瞬の物思いに沈む。

そこへ、友達が口紅を持ってきて、ジュンは生まれて初めて口紅を塗ってもらう。この時の、目を閉じた小百合の表情は、おそらくこの映画の中で最も美しく、少女から大人への微妙な変化を映し出していて、エロティシズムさえ感じさせる。

この間、ブラームスの哀愁の旋律はずっと流れていて、ジュンの揺れ動く心象風景を伝えてくれる。

モノクロ映画にもかかわらず、小百合の唇にたわむれに塗られた口紅の赤が、鮮やかに見えるような場面である。

早船ちよさんのご冥福を、心よりお祈りいたします。

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