自民新憲法草案では徴兵制も可能か
今日のブログは、「表」の21世紀エッセイ「時間の岸辺から」と連動して、自民党の新憲法草案について書く。
この自民草案は、「表」でも書いたように、中曽根案にあった復古調を削って、9条1項の戦争放棄を残すことが、今朝の新聞各紙で強調されている。
だが、「表」の「時間の岸辺から」に書いたように、9条1項を残すことは改憲に反対する国民への目くらましであり、鎧と刀をおおいかくす法衣に過ぎない、と僕は思う。
自民草案では、文言こそ入れられてないが、集団的自衛権を認める立場とされていて、海外での武力行使も可能となる。
自衛隊が自衛軍となった時、当然のことながら自衛隊員という呼び方ではなく、自衛軍の兵士と呼ばれることになるだろう。アメリカ兵という呼び方と同列に、日本兵という言い方も復活するに違いない。
軍であり兵士であるからには、武力を行使し敵を殺傷することもあれば、敵から殺傷されることも覚悟しておかなければならない。
そのような軍隊に、これまで通り入隊する若者が相次ぐだろうか。
武力行使が当然の仕事になるのならば、防衛大学校を卒業しても入隊を希望しない者が相次ぎ、また自衛軍募集のポスターやチラシによって入隊してくる若者が少なくなることは、十分考えられることだ。
自衛軍の兵士が慢性的に不足するような事態になったら、次に出てくるのはアメリカ、韓国など軍隊を持つ多くの国で当然のこととして実施されている徴兵制の導入だろう。
今回の自民草案では、国防の義務はあからさまには明記されていない。
しかし僕は、草案前文の「日本国民は、帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務を共有し」というくだりを根拠とすれば、自民草案でも徴兵制は可能だろう、と考える。
この前文と、9条2項の「自衛軍の組織および統制に関する事項は、法律で定める」というくだりに基いて、法律によって有事に徴兵制を敷くようにしておけばいいのだ。
かりに徴兵制は違憲であるという訴訟になっても、前文の規定に照らし合わせて合憲の判断が下されるのではないか。
僕は、環境権やプライバシー権などは、現行憲法によっても裏打ち出来る権利で、あえて改憲する必要はない、と思う。
自衛隊の国際貢献も、現行憲法の解釈の範囲でブレーキをかけながら、おそるおそる行うくらいでちょうどいいのだ。
かりにどうしても、それらについて憲法に盛り込むなら、百歩譲って現行憲法の前文と9条1、2項は変えるべきでない、と考える。
(表の新着情報:「21世紀の歩き方大研究」の21世紀エッセイ「時間の岸辺から」に、「自民新憲法草案、法衣の下の鎧と刀」をアップロード)
| 固定リンク
コメント
こんばんわ。
初めまして。
自衛軍と9条で明記したこと
で、憲法が軍の存在を認めた
訳ですから、その憲法の
制憲権者である国民が、
当然に、自衛軍の運営に携わる
責務を負うことになります。
従って、憲法の下位の法律で、
徴兵制を採用する事は可能と
なります。
問題は、、当該、徴兵制を採用
する法律が、憲法に抵触するか
否かという事ですが、全文は
憲法の抽象性を謳ったものとして、
法規範性はありますが、裁判規範性
はありません。
つまり、全文を根拠に裁判できない
というのが、現在の判例、通説です。
もっとも、全文で書かれた内容を、
9条の2の4項の解釈の指針と使用
する可能性はありますので、貴殿が
おっしゃる通り、同条同項の関係に
おいては、徴兵制は合憲となるでしょう。
次に問題となるのは、実の所、18条の
2項に当該法律が、合憲か否かが問題
となります。
18条2項には
「その意に反する苦役に服させられない」
としています。
徴兵制は、まさしく、苦役を意味する訳
ですから、18条との関係で、憲法訴訟が
関係してくるという訳です。
では、18条の「苦役」にあたるかを
検討するに、18条の「苦役」は絶対的
無制限ではなく、12条、13条後段の
「公益」に反しない限りにおいて、保障
される権利であると解されます。
そこで、12条13条の「公益」の
内容が問題になります。
9条において、軍の存在は、「公益」
の為に存在する訳ですから、
従って、12条、13条の「公益」の
解釈に、9条の理念が加わった
解釈になるわけです。
よって、18条の「苦役」は「公益」
の範囲内の「苦役」であれば
合憲となります。
本件においては、徴兵制を採る法律が9条で
「公益」なるわけですから、18条の「苦役」に当たらず、
合憲となるでしょう。
どちらにしても、9条が軍隊の
存在を認めた以上、徴兵制を
採ることは、可能となります。
したがって、9条の改正の是非
は、徴兵制までつっこんで議論
する必要があります。
仮に、自民党の人が、徴兵制は
採らないと明言しても、憲法で
軍の存在を認めた以上、法的には
いつでも、徴兵制を採る事は可能
なので、騙されないようにしなくて
はいけません。
私個人の意見ですが、
9条の改正
がマスコミ等で問題となっていますが、
本当は12条13条の「公益」「公の秩序」
の範囲内で人権が保障されるとする
内容が、最も重要な争点となるはず
なのです。
なぜなら、憲法は根本は自由
と権利の保障にあるからです。
この人権保障の根本に制限をつけ
加えられる事は、個人、つまりは、
国民にとって、一番の拘束である
と考えます。
この12条13条の改正を蔑ろした
場合、9条の問題のみに憲法議論
が集約されてしまうので、へたを
すれば、先の衆議院選挙の様に
大衆操作によって、国民が新憲法を
採用する可能性があります。
さらに言えば、日本国内で、テロ行為
を日本政府がワザと見過ごし、軍の
存在をアピールする可能性もあります。
最悪、この様な愚劣な策略がなくとも、
日本でテロが起こると、世論は、一気に
軍の存在を容認する可能性があるでしょう。
また、今現在の北朝鮮、中国の情勢を
伝えるマスコミ報道にしても、テレビの
アナウンスは、ワザと北朝鮮を不気味な
所であるが如く、声のトーンを下げて
原稿を読み、映像を流している風潮も
あります。
もとより、私自信、北朝鮮や中国の反応
には、危機感を感じていますが、多くの
国民は、その場の雰囲気に流されてしまう
のが常でしょう。
とすれば、やはり、9条のみを争点と
するのではなく、現憲法が普遍的で、
恒久的な人権保障の程度を何故、
自民草案は弱める必要があるのか、
そこを議論の意義が大切となるべき
だと考えるのです。
すみません!だらだらと長くなって
しまいました。
貴殿が一生懸命な方なので、私も
一生懸命にならなくてはと思い、
ついつい長くなってしまいました。
貴殿のブログをこれからも、参考にさせて
頂ます。
頑張ってください。
投稿: こじこじ | 2005/10/30 00:33
こじこじさん、コメントありがとうございました。おっしゃるように18条の「苦役」条項よりも、12条および13条の「公益および公の秩序」が優先されることは当然の帰結で、自民草案の前文と9条2項、12条、13条によって、徴兵制への道は整然と敷かれている、と見ていいでしょう。
僕が憂慮するのは、最近の若い人たちの間に、「国を守るのはみんなの責務であり、徴兵制のどこがいけないのか」といった感覚がジワジワと浸透していることです。いざという有事を前にした時に、徴兵制は高揚した気分の中で、さしたる反対運動も起きないまま、通っていくような危惧を感じています。
投稿: BANYUU | 2005/10/30 11:07