「ゴジラ」音楽の伊福部昭さん死去
映画「ゴジラ」の音楽で知られる伊福部昭さんが8日夜、91歳で死去した。
伊福部さんは、土俗的なエネルギーにあふれる作風で、国際的にも高い評価を得ている作曲家で、東京芸大の前身である東京音楽学校で教鞭を取り、芥川也寸志、黛敏郎ら多くの作曲家を育てた。
その伊福部さんが、「ゴジラ」の映画音楽を依頼された時、周囲の人たちは「怪獣映画の音楽なんて」と反対したという。
しかし、水爆の権化としてのゴジラが、B29による大空襲の再現のように、あるいはヒロシマ、ナガサキの惨状さながらに、東京を破壊していくという構想を聞いた伊福部さんは、二度とあのような悲劇を繰り返させてはならい、という強いメッセージ性に共鳴して音楽を引き受けた。
伊福部さんが渾身の力を注いで生まれたのが、ゴジラが現れるシーンに流れる、あの重々しいリズムに乗った名高いテーマ曲だった。
ゴジラの映画の中では、このゴジラのテーマ曲があまりにも有名になっているが、実は同じゴジラ第1作の中で、伊福部さんが作った全く対照的な音楽が流れるシーンがある。
品川から上陸したゴジラによって、東京は火の海となり、焦土と化した瓦礫の街は、けが人で溢れかえる。
この惨状を伝えるテレビが、制服の乙女たちによる「平和への祈り」の合唱を中継する。
やすらぎよ ひかりよ
とくかえれかし
いのちこめて
いのるわれらの
このひとふしの
あわれにめでて
この映画の中で最も感銘深く印象的なシーンで、観る者の心を強く揺さぶるばかりか、ストーリーにとっても決定的な意味を持つ。
それまで、自分が発明した破壊兵器をゴジラに対して使うことをこばんできた芹沢博士が、テレビで流れる「平和への祈り」を聴いて激しく動揺し、葛藤の中で破壊兵器の使用を決意する。
「平和への祈り」は、伊福部さん自身が平和への祈りを込めて、このシーンのために作曲したもので、しみじみとした美しい旋律は圧巻といっていい。
映画「ゴジラ」が反核・反戦の強烈なメッセージに貫かれた不朽の名作として、高い評価を得続けているのは、伊福部さんが平和への願いを込めた音楽によるところが大きい。
伊福部さんのご冥福を、心よりお祈りいたします。
追記:9年前にNHKテレビで放映されたETV特集「作曲家 伊福部昭・蘇った幻のピアノ協奏曲」という番組のビデオを、いま改めて見て驚いた。林務官だった伊福部さんは昭和20年、軍部の秘密の実験にかり出され、木材に放射能を照射する実験を続けたために、放射線障害をわずらい、指から血が出るなどの深刻な症状が出た。自ら放射能を被爆した体験があったことが、水爆の権化となって放射線を撒き散らすゴジラに強い関心を持ち、周囲の反対にもかかわらず映画音楽を引き受けようという動機につながった、と当時83歳の伊福部さんは番組の中で語っている。
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コメント
cute_sunさん、はじめまして。
伊福部さんが20代後半に作曲して、8年前に55年ぶりに蘇ったという「幻のピアノ協奏曲」を今から聴いて追悼したいと思っています。
投稿: BANYUU | 2006/02/09 18:52
トラックバックありがとうございました。
なんか同じタイミングでトラックバックしたみたいですね。背景などとても詳しく書いてあって、参考になりました。
投稿: cute_sun | 2006/02/09 18:37