再開発地区に、銭湯の壁画が夢の跡
再開発地区に指定されて、古い建物や家屋が廃墟となり、解体が進む北新宿地区の一角。
銭湯だった建物が半分取り壊されて、タイルの巨大な壁画だけが残っている。
開発で拡幅整備が進む大通りからも、近代西洋画風の壁画がよく見える。
この壁画は、男湯のものか女湯のものか。
壁画には裸の女性が二人描かれていることから、僕は女湯の壁画だろうと思うのだが、もしかすると男湯と女湯の両方にまたがる壁画だったのかも知れない。
この壁画の前で、そしてこの壁画を眺めながら、どれだけ多くの人たちが、裸になって1日の疲れを癒したことだろうか。
おそらくは、内風呂を持たない人たち、アパート暮らしの人たちなど、それほど裕福層ではない人たちが多かったのではないか、などと思ったりする。
「とうちゃん、上がるよ~」「あいよ、おれも上がるところだ」などと、女湯と男湯で声をかけあうなども日常茶飯事だったのではないか。
銭湯代もやっとの思いで工面して来る人たちや、明日からどうやって生活していこうかとため息をつきながら髪を洗う人など、裸の姿からは伺い知れない悩みもまた、無数にあったことだろう。
そうした人々を、おそらく何10年にも渡って、湯煙を通して見つめ続けてきた壁画には、もはや見てくれる裸の人々の姿はない。
この壁画も、母屋の壁に張り付いているから、かろうじて残っているものの、煙突のある母屋が解体される日には、もろとも取り壊されるに違いない。
周辺の再開発の進み具合からして、その日は近いものと思われる。
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