秋の夜長にドストエフスキーを2冊
ドストエフスキーを2冊読んだ。
一冊は、ドストの処女作で文壇へのデビュー作となった、『貧しき人びと』。
新潮文庫ではあるが、文字が大きくなっていないため、読むのに目が疲れたが、内容は往復書簡形式で書かれているので読みやすい。
この作品は、ドスト文学の出発点ともいわれるゴーゴリの『外套』を強く意識した作品で、ペテルブルクの極貧の人々の生活ぶりがリアルに描かれ、その後のドストの数々の名作の萌芽が随所にうかがえる。
近所に住む貧しい男と貧しい女は、恋愛関係ではないのだが、お互いに強い愛情と信頼で支え合っている。
貧しさの極みの中で、人はどうやって誠実さを貫くことが出来るのか。その日その日に食べるお金にも事欠く赤貧の中で、人と人との信頼関係はどこまで耐えられるものなのか。
ドストが生涯の重いテーマとして作品の中で格闘し続けた貧しさとお金の問題は、この作品でも主人公たちを極限まで追い詰めていく。
結末はあまりにも不条理だが、このどうにもならない不条理こそ現実世界なのだと、ドストは冷徹に、そしてヒューマンなタッチで描ききっている。
もう一冊は、『永遠の夫』。こちらは文字の大きくなった新潮文庫で、目にはやさしいが、内容は話があっちへ行ったりこっちへ行ったりで、全体の流れがつかみにくい。
『永遠の夫』という邦題もしっくりせず、訳者の千種堅氏はあとがきの中で、『万年亭主』という題のほうがふさわしいのだが、我が国ではすでに『永遠の夫』で定着しているので、変えるのは難しいと書いている。
今回読んだ2冊の中では、『貧しき人びと』が圧倒的に素晴らしくて、後年の『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』などの傑作群へと結実していくドスト文学の原点がここにあるという感じだ。
僕がまだ読んでない主要なドスト作品に『地下室の手記』があり、次にはこれを読んでみようと思っている。
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