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2010/07/16

ミニコと云ふ名の、うつくしき女の想ひ出

Minikob_2今は昔、ミニコと云ふ名の、若き女、余と同じ職場に居りし。

伯林の壁の崩壊して、東西独逸の統一されたりける頃となむ記憶せる。

その女、年のころ、二十七、八なりけむ。

姿形いと、らうたげにして、心ばへめでたければ、職場の垣根を越へて、あまたのひとたちに愛しまれたり。

余のその職場にありける三年といふあひだ、さまざまなる仕事、ともに携わる機会の少なからざりけり。

会社近くの道路にて出会ひし折、ミニコは歩行者信号の赤なるに、ひやうと身軽に走り渡りて来ぬ。

「みなひと、われのことをば、信号破りのミニコと呼ぶなるを」と云ひけるも、をかしとぞ覚ゆる。

さる日、ミニコ、余にさりげなく伝へたりき。

「このたび、われ、結婚せむとす。相手は社内の人なり」と。

ミニコの結婚披露宴に、余も出席したり。新郎新婦とも、幸せに輝けるさま、云ふもおろかなり。

けふ、社内報の送られてきたるを見て目を疑ふ。

ミニコ、食道がんにて死にたりけるとぞ。

享年四十八歳となむ。

人の世は、あまりにもはかなく、命の短さは何にか譬へむ。

ミニコ、天国にても、信号破りをしつるにや。

冥福の心より祈れるを。

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