忘却のメモ帳発見、小学6年生の自分に出会ふ
探し物をせむとて、押入れ上の戸袋の中、あれやこれやとかき回し、不要のものなんど少し整理したるに、奥なる箱よりちさきメモ帳のやうなるもの、こぼれ落ちぬ。
こはいかに、とて見れば、超ミニサイズのメモ帳なり。
1ページ目に、学校の時間割なむ書かれたる。月水土が4時間目まで、金が5時間目まで、火木が6時間目まであるに、こは小学生の自分が持ちたりけむメモ帳なるらし。
当時、分団と名付られし地域子ども会の、学年別の名簿なんども、余の鉛筆書きにて書かれたり。
余の名前ぞ、6年生のところにぞ書かれたる。
生まれて初めて東京見物せし時の走り書きやスタンプもあり。
つゆも記憶あらざることの、あまた書かれたるは、半世紀以上も昔にタイムスリップしたる心地ぞする。
メモ帳の中のそこかしこに、北原白秋作と書かれたる『ことば』と題さるる詩の、全文の3度までも綴らるるは、いみじう不思議のことなるぞ。
当時の余は、よほどこの詩の、心にきと残りたりけるにや。
とうの昔に散逸したりける忘却のかなたより、このメモ帳のみぞ、いかで今日まで残りたるやを知らず。
当時、余を含め子どもたちを取り巻くメディアは、ラジオ、紙芝居、貸本屋が全てなりき。
余にとりて、このちさきメモ帳は、さしづめパーソナルメディアなりけむ。
ここに、小学6年生の自分に戻りて、その詩を掲載せむとす。
北原白秋作 『ことば』ことばはかわい
きれいなまもの
小さなまもの
生きてるまもの
一つ一つかわいことばははねる
つまめばにげる
てんと虫のように
水すましのように
一つ一つはねることばはひびく
あしのはのふえよ
すずむしこむし
チックタック時計
一つ一つひびくことばは光る
プリズムのかげよ
花火やほたる
とんぼのめだま
一つ一つ光ることばはかおる
べにばら野ばら
さんしょの木のめ
めやぎのおちち
一つ一つかおることばはしみる
はちみつやいちご
青うめわさび
にがいにがいくすり
一つ一つしみることばをつづる
じゅずだまむくろんじ
赤い赤いつばき
げんげの花わ
一つ一つつづろ
【追記 8/29】 白秋の原文を知りたしと思ひて、ネットにて調ぶるに、こは大正10年から11年ごろにかけて作られたりける『祭りの笛』なる童謡集に、『言葉』なる題にてぞ収められたりける。余のメモ帳に書かれしは、平仮名あまた綴られたるに、原文は漢字多用せられたり。「一つ一つ」のくだりなむ、原文はいずれも「ひイとつひイとつ」となれり。6節目、「はちみつやいちご」は原文「お蜜や、苺」なり。7節目、「ことばをつづる」は原文「言葉を綴ろ」なり。余のメモ帳は、手書きにてメモされたる3回とも、7節までなるが、原文は8節目までありて、「言葉はをどる 不思議な小人 三角帽の小人 ちんからちんから囃して ひイとつひイとつ踊る」にて終りたり。
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