宇宙の96%の物質が正体不明なる衝撃
新聞なんどでは、さらさらに細かき報道も解説もえされざるに、科学界を震撼させたる重大事件なむ、21世紀になりて起こりたる。
おほよそ10年ほど前まで、すなはち20世紀末ころには、物理学なかんづく宇宙論の発展の華々しきさま、我が世の春を謳歌するが如し。
宇宙誕生から1秒の100万分の1秒後までてふ、目も眩むばかりの短き時間のうちに起こりたりけむ諸々なる出来事の詳細、つぶさに見てきたるやうに記述したりけり。
さらには、この宇宙とは異なる別の宇宙の、無数に存在したりて、それぞれに物理法則の違へるなんど、検証も観測も能はざることの、まことしやかにぞ語れる。
物理学は偉大なる勝利を収め、もはや物理学はなすことの何もなかりける、と豪語する者さへあまたあり。
残るは、相対論と量子論を統合し、さまざまに細分化されたる素粒子どもや、重力なんど4種類の力のすべてを説明することの能ふ大統一理論の発見のみにて、それすらも完成は時間の問題なる、との楽観、学者たちに蔓延したりけり。
物理学者の思ひあがりと自信過剰に、まさかなる暗雲の垂れ込め始めたるは、1998年ころからなるらし。
この宇宙には、科学のゆめゆめ知らざりける正体不明の物質(暗黒物質と呼べり)や、正体不明のエネルギー(暗黒エネルギーと呼べり)の、すこぶるあまた存在するらしきこと、やうやうに明らかになりたる。
そは2003年ころには、たれの目にも疑ふことなき問題となりて露呈されり。
今日までに判明せるところにては、この宇宙を構成せる22%が暗黒物質なりて、さらに74%が暗黒エネルギー、物理学の把握せる通常の物質・エネルギーは4%に過ぎぬとぞ。(円グラフは、3D円グラフ作成サイトにて作りたり)
しかも、通常物質の半分は、行方不明の状態なるとや。
宇宙の誕生から現在の姿まで、世界の様相のほぼすべてを解明し尽くしたり、と誇らかに胸張りたりける物理学は、はつかに2%の物質・エネルギーのみぞ研究対象にして来たるに過ぎざる。
宇宙を構成せる98%が分からぬなるは、ほとほと何も分からぬに等しくはなきや。
こは、お釈迦様の手のひらにて、世界を制覇せりと叫ぶに異ならずして、あさましきさま、云ふもさらなり。
世界中の科学者たちの、躍起になりて暗黒物質と暗黒エネルギーの正体解明せむとするも、捉ふることも観測することも、え出来ずして、手がかりなき謎の前に物理学全体の立ちすくめるが、いまの状況なるとぞ。
この解明こそ、物理学のみならず、科学界全体の直面せる21世紀最大の課題なるらめ。
孔子曰く。「知らざるを知らずと為せ。これ知るなり」と。
科学は、空威張りを捨て、己の知らざるを、直視すべきならずや。
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