新春の初忘れ物ぞ、ローストビーフなる
正月三が日最後のけふは、スーパーを3箇所はしごしたりて、食品や日用品ども、少しずつ贖い歩きて時間をつぶす。
レジ袋、5つ6つになりて、中身を入れ直しまとめたりしつつ、家に帰りてとく冷蔵庫なんどに仕舞いたり。
さて半時間ほど経ちて、昼食のサンドウィッチ作らばやとて、パンをトースターに入れ、贖い来しはずの少量のローストビーフを具にせむと冷蔵庫見るに、あらずなるは。
不思議のことなるかなと、持ち帰りたるレジ袋、虱潰しに逆さになして中身調ぶれど、どれもこれもみな空なり。
ローストビーフはいづくぞ、と暫し考へ込む。
もしや、贖ふつもりを、心うはの空にて止みたるにや、と塵箱に捨てたるレシート、取り出だして見れば、254円の値段にて支払いたりけるに、まがふことなし。
レシートに記載されたるに、家中探し回れどあらずなるは、もしやスーパーに置き忘れたるかとぞ。
余はここ数十年、贖ひたる物の、忘れたり落としたりけるためしなきに、まさかとも覚ゆれど、コート着なほし皺になりたるレシート取りて、ふたたびスーパーに出向きたり。
レジにて、「さきに忘れ物なきや」と尋ぬれば、「なんぞ忘れたる」と尋ねらるる。
安き物なるに、いいさか気のひける思ひすれど、臆せずに「ろーすとびーふなるは」と云ふも、なにとはなしに照れくさし。
レジのおばはん笑みて、「さは、これならむ」と袋に保管せしパックぞ差し出せる。
「おうおう、これなるを」と、余は喜び勇みて、忘れ物受け取リ帖にサインして、持て帰り来たり。
たかが254円、されどローストビーフ、かくて作りたるサンドウィッチの美味なりけるは、云ふもさらなり。
つまらぬ忘れ物したるを悲しまず、無事に回収出来たるをこそ感謝すべからめ。
こいつぁあ春から縁起がいいわい、と一人悦に入りたるぞかし。
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