裏通りの辻角に、御猫の鎮座ましまして地域見守れり
余の家の近くなる、裏通りの辻角に、いつも御猫の鎮座ましますを見かけるやうになりたり。
猫は建物の軒下の雨のあたらぬところに、毎日、おなじ格好にて横たはれり。
ほとど寝ているやうなるが、人間がそばを通る時には、薄目を開けて、さりげなく観察したるらし。
猫のわきを通る人間ども、「あな、らうたげなる猫ぞよ」など云ひて、猫の体や頭に触り、撫でゆけるも少なくあらず。
撫でられたる猫は、目を開けて何ぞや云ひたげなるも、鳴きもせず逃げ出しもせず、やがてまた目を閉じて眠りたり。
こはいかなる猫ならむ。
水の入りたるペットボトル、いつも脇にあるも、猫はいかやうにしてペットボトルの水を飲むにや。
ひたぶるに興味の募りて、けふは、近くになむ寄りて、まじまじと観察したる。
猫も時折、目を開けて、余をまじまじと観察しおれり。
よくよく見れば、猫の居るところは、魚なんどを入れるやうな発泡スチロールの箱の上なりて、猫の下にはタオルやビニールなんどの敷かれたりけるは。
この発泡スチロールの箱、側面に出入り口とて大きなる穴の開けられたりて、風雨の折や夜には、猫は中に入りて休むことの能ふべし。
出入り口の前には、水用のちさき器と、数粒のキャットフード入りたる小皿も置かれたり。
ペットボトルの水ぞ、そばを通る人間の、器に水の乏しくなりたるに気付きたるが、蓋を開けて注ぎやるらむ。
キャットフードや、ペットボトルの更新なども、軒の家の人や近所の人、通行人なんどが、思ひつきたる時に、世話をしたるかと見ゆ。
かくして、さまざまな人間ども、この猫を見守りゆけり。
猫も、毎日、同じ辻角にて、人間どもの往来を見守り続け、いつしか地域見守る生き地蔵の如き存在となりぬらむ。
猫地蔵。都市伝説としては悪くなからむとこそ。
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