何年ぶりかで柿を贖へば、億万年の時を駆ける
秋深まりゆくけふ、柿をひとつ贖ひきたり。
余が柿を食らひたしと欲するは、数年ぶりのことなり。
柿を目の前に置きて、しばし眺めたり。
こは、派手派手しさの無き果物なるが、見入れば見入るほどに、セピア色の感覚覚ゆる。
ひとことにて柿を表現すれば「空」にして、その中に全宇宙を包みたるが如し。
柿の色は、経過したる時間の色なるぞかし。
大林宣彦監督作品の『時をかける少女』に、柿の出で来る歌ありき。
温室に水撒きながら、深町君(高柳良一)の歌ひ出せるやう。
♪ モモ、クリ、三年、カキ八年
芳山和子(原田知世)、合はせてデュエットにぞなれる。
♪ ユズは九年で成り下る ナシのバカめが十八年
これにて終はりかと思ひきや、深町君、さらに続けてかく歌へる。
♪ 愛の実りは、海の底
♪ 空のため息、星くずが ヒトデと出会って、億万年
和子は時折、ラララと合はせたりて、「素敵な詩なりや。われ、その歌にかやうなる続きのあること、知らざりけるは」と云ふ。
この挿入歌、『愛のためいき』てふタイトルにて、平田穂生作詞、大林監督自らの作曲によるものとぞ。
二人のデュエットぞ、映画における最も印象的なる場面なり。
柿一つ、時空を駆けて、秋の夜
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