『時かけ』挿入歌二番の難解なる謎解きに挑む
3日前、本欄に書ける映画『時をかける少女』の挿入歌、『愛のためいき』の二番ぞ、ゆかしくも不思議の歌詞なる。
この二番の、人の心、揺り動かすは、ただに詩的なる単語を並べたる故にあらずして、深遠なる意味の隠れたる故ならずや。
ネットにて調ぶれども、この歌詞の根源に肉薄せる解釈、いまだ見当らず。
そこで余は、この歌の真に意味せむがところ、我なりに徹底的に考察しやうと思ひ立てり。
一番 モモ、クリ、三年、カキ八年
ユズは九年で成り下る ナシのバカめが十八年
二番 愛の実りは、海の底
空のため息、星くずが ヒトデと出会って、億万年
歌詞の一番は、何事をせむにもそれ相当の年数要せる、てふ意味なること云ふもさらなり。
二番の意味せむところぞ、一番の意味するところを敷延し深化させたるにや、と覚ゆる。
まず、「海の底」てふ言葉に着目し、こは地球における最初の原始生命の誕生したる場所が、深海の熱水噴出孔のやうなところと見られることを示すらむ、と見当つけたり。
謎解く上で最も重要なるキーワードは、「ヒトデ」にこそあらめ。
「ヒトデ」の意味するものは、星型あるひは五角形のものならむ。
地球に生命の誕生するにあたり、決定的なる役割を果たしたる五角形のものとは、何ぞや。
そこで、生命体の基本中の基本たる、蛋白質やDNAの関係したるにや、と着目して見む。
このアニメーション、ふたつとも二重螺旋なせるDNAの分子模型にて、左は美しき形なるも、五角形なるものの姿、目を凝らし見れば、ちらちらと見へ隠れするも、いまひとつ、さやかにてあらず。
ならば、分子構造のいくぶん分かり易き右のものは、いかがならむ。
五角形のもの、あまた回りゆくことの、鮮明に見へざるや。
この正体を探りゆくに、DNAの基幹部分を形成するデオキシリボースてふ糖の、五角形の環の形して、リン酸と塩基に結合するところまで、辿り着けり。
五角形の環の結合体(ヌクレオチド)の延延と続くる連鎖こそ、生命体の設計図にして遺伝情報の担い手なるDNAそのものなれ。
DNAとともに生命活動を担う、RNAの基幹をなすリボースてふ糖も、同様に五角形にて連鎖しゆくなり。
これにて、「ヒトデ」の正体、つひに明らかにされたり。
ウイルスから動植物、人間に至るまで、すべての生命体の持てるDNAなむ、「ヒトデ」の意味する中味なる。
地球上の生命体を構成する炭素、酸素などは、星の内部における核融合反応によりて生成され、星の死滅である超新星爆発によりて鉄、銅、塩素、亜鉛、リン、カルシウム、カリウム、マグネシウムなどあまたの元素の作られたるとともに、宇宙空間にばら撒かれたり。
歌詞における「空のため息」とは、超新星爆発のことを詩的に表せるものにほかならずして、「星くず」とは、かくてばら撒かれたるあまたの物質のことならむ。
それらの物質がしだひに集まりて太陽系が生まれ、6億年から7億年もの長き歳月を要して作られたる、DNAやRNAと遭遇することにより、最初の生命につながりゆけり。
「ヒトデと出会って、億万年」とは、このことなるぞかし。
最初の生命誕生を、「愛の実り」と歌ひたるは、まさに珠玉の表現なるは。
この歌詞はまこと、地球に生命の誕生したるドラマを、短き詩に凝縮したる賛歌なり。
一個の細胞の中のDNAを延ばして繋ぐと、その長さは2メートルにもなるとぞ。
人間の体内には、60兆の細胞あり。
一人の人間が持つDNAのすべてを繋ぐと、太陽系を4、5周せむ長さになるとや。
我ら一人一人の体はそれぞれに、32億対の60兆倍てふ天文学的な数の五角形の連鎖を持てり。
太古より、人が夜空の星星を見上げたる時に、遠き故郷のやうな懐かしさを感じ、星の形を五角形と認識し続けきたるは、この故ならむとこそ。
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