モーツァルト『魔笛』を初めて観て、病みつきに
余は中学のころより、クラシックファンの端くれを自認するも、いかなるにや、これまで50年以上も、モーツァルトの歌劇を観しこと一度もなかりけり。
序曲や名高きアリアなんどは、時折、耳にすることはあれど、全曲を通して観ること、いまだに食はず嫌ひにて、敬遠し続けたるは。
もとより、手元にはモーツァルトの三大オペラ全曲はじめ、『後宮よりの逃走』なんどの全曲公演をTVより録画したるDVDあるも、宝の持ち腐れとなりて観る機会ぞなかりける。
6年ほど前のこと、これらのDVDの中から、まずは『コシ・ファン・トゥッテ』を観てみむと、意を決して臨みたることあり。
あなや冒頭から、真っ赤なミニスカートの女たちと、背広にネクタイ姿の男たちによる、アメリカンミュージカルのやうな現代風読み替え演出に、余の期待は深き失望に転じ、観るのを止めたりけり。
これに痛う懲りたる余は、ほかのモーツァルトのオペラも、同様の読み替え演出をしたるにや、と疑心暗鬼になり、もはや観ることもなく、さらに歳月なむ過ぎゆける。
今回は、たまたまYouTubeにて、Pa-Pa-Pa-Pa-Paと題する奇妙なる歌の映像ありて、観てみるにいみじう面白く、何てふ曲やらむと見れば、『魔笛』の中の『パパパの二重唱』とぞ。
されば、余は手元に保存せる『魔笛』全曲のDVDぞ、初めて観てみたり。
いでいで、余はこれほど素晴らしきモーツァルトを初めて知りぬ。さらに、古今東西を通して、かほど面白きオペラはほかにあらじ、と驚嘆するにいたれり。
かくて、余はこのところ手元に3種類ある『魔笛』全曲のDVDなむ連日再生して、ひたぶるに魔笛の虜になれる。
どれも、奇怪なる読み替え演出はなく、余のやうな全き初心者は安心して楽しむること、なによりなり。
全曲を通して観るに、『パパパの二重唱』こそ、まさにクライマックスなりて、この場面は鳥肌の立つほどの感銘を覚ゆれ。
昨日、さらに2種類の『魔笛』全曲DVDを贖ひて来たり。
このオペラは、モーツァルト自身の指揮によりて初演されたるは1791年のことなりて、それから220年も経ちぬるとや。
余は、このオペラを知らぬまま一生を終ふることなく、遅まきながらもやうやう『魔笛』にめぐり会いたること、望外の喜びなるぞかし。
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