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2013/05/01

東京の街路樹に、さくらんぼの実れる頃

130501a余の家近き幹線道路沿ひ、あまたの街路樹続く中に、1本のみ不思議の桜の木ぞ立てる。

ソメイヨシノの開花より半月も早き3月初めに花開き、10日ほどで葉桜となりぬ。

何てふ種類の桜ならむと訝れど、仔細は分からぬまま、やがて大型連休を迎へたり。

先日ふと、その木を見上ぐれば、赤々と色付きたるサクランボなむ、山ほど実を結びたるは。

東京23区の中なれど、こは山形のサクランボ園かと見まがふほど、見事に鈴なりとなれり。


「さくらんぼの実る頃」という歌のあるを知るや。

作詞者のジャン・バチスト・クレマンは、詩人にして社会主義者。パリ・コンミューンの評議員なりけり。

1871年3月、ヴェルサイユ軍に包囲されしコンミューンにて、負傷せる戦士たちの介抱にあたれる若き看護婦ルイーズの姿になむ、クレマンはいみじう感銘を受くる。

コンミューンは2カ月で崩壊し、戦士たちの多くは「血の週間」と呼ばれたる大虐殺にて命落とし、ルイーズもまた犠牲となりけるとぞ。

クレマンは「さくらんぼの実る頃」の歌詞の3番までを書きつるに、4番の歌詞を書き足して、この歌をルイーズに捧げたり。

普仏戦争の敗北とコンミューンの崩壊の中、失意にくれたる市民たちの間で歌はれ始めたるが、この「さくらんぼの実る頃」なり。

以来、この歌ぞフランスの労働者や下町の人々のシャンソンとして、歌ひつがれたる。

宮崎駿監督の「紅の豚」の中で、ホテル・アドリアーノの美しきマダム・ジーナが、「さくらんぼの実る頃」を歌ひたる。

ジーナ役の声優は加藤登紀子なりて、映画の中で切々と歌ひ上げるこの歌は、アニメ史上に残れる、というよりも日本映画史に残れる絶唱なるぞかし。

加藤登紀子の夫は元学生運動の活動家なりて、獄中結婚したること、あまねく知られたり。

マダム・ジーナになりきりてこの歌を歌ふ加藤登紀子には、コンミューンの戦士たちと夫がどこかで重なりたるに相違なきや。

その夫は、2002年の7月、享年58歳にて肺がんのため他界せる。

さくらんぼの実るこの季節、加藤登紀子は静かにこの歌を口ずさみ居るやも、と余は想像す。

以下は、クレマンが書き足したる4番の歌詞の文語訳なり。

我は、さくらんぼの実る季節を、永遠に愛でむ。

我の心に傷口のいみじう開きしは、この季節からなりき。

たとへ、さいはひの女神なりとも、我の苦しみを閉ざすこと、決して能はじ。

我は、さくらんぼの実る季節と、心に抱くこの思ひ出を、永遠に愛でむ。

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