中秋の名月
今宵の中秋の名月は、中空にかかれる雲の裏に、かそけき光の気配あり。弱弱しき光のややおきて雲間を照らし、姿見せると思ひきやまた暗くなりつる。
いまかいまかと見るに、雲間いよよ明るくなりて、はつかに名月の端の覗きて、ひときは輝けるさま、心ときめかざるや。
再び隠れ、雲の広がる中、月の端の移ろひ移ろひて姿現しては見えずなり、胸ひしぐ思ひしけるに、いでや雲の切れ目から煌々たる名月の全容が現れたるは、夢かと見紛う圧巻の絵巻模様なり。
隈なく澄みわたりたる夜に見る名月もされど、雲間から現れては隠れ隠れては現れる名月の風情こそ、価千金の趣ならめ。
月みればちぢにものこそ悲しけれ わが身一つの秋にはあらねど
大江千里
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