雨のベランダに訪問者

降りしきる雨の中、一匹の蜻蛉飛び来たりて、ベランダの枯れ枝に停まる。
余が見遣ればやや飛びて梅雨空を一度二度旋回し、再び同じ枝に戻りたり。
網戸ひそかに開け、ケータイのカメラ向けるも、気にせずひたすら停まり続くるは。
この蜻蛉、声かけなば返事するや否や。試みに尋ぬれば、ちさき声にて応じけるぞよ。
「汝いかでここに来つるや」
---知らぬ。
「雨宿りかとぞ」
---違えり。雨なんどいかほどのものか。
「いま何ぞ考えおるや」
---考へごとはせず、時間を味わひつる。
「明日は如何にするらむ」
---なにをあくせく、明日をのみ思ひわずらふ。
「いまから何処に行かむとや」
---けせらせら。
一時間のちに見遣れば、まだ停まりたり。二時間のち三時間のちに見れば、向きを変へたるもやはり同じ枝に居るは。
四時間のち見れば、蜻蛉の姿消へて雨上がりに枯れ枝のみ残れり。


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